恋人たちのパンドラ【完】
***
「それでは失礼します」

そう挨拶をして課長は一人上機嫌でタクシーに乗り込んだ。

課長と別れた悠里と直樹は駅へと向かって歩いていた。

5月末の夜風が頬をかすめると、酔ってほてった頬を少しずつ覚ましてくれているようだった。

「あの、徳永さん。碓井専務と何かあったんですか」

悠里がトイレから戻ってきてから様子がおかしいのを直樹は感じとっていた。

その離席中に同じように壮介も席をはずしていたのだから、こういう質問をされても仕方ないだろう。ましてや直樹は三国での二人のやり取りも見ている。

「んーどうだろうね」

悠里はこの勘のするどい後輩に嘘をつく自信がなかったので何とか誤魔化すことにした。

それさえも決してうまくはできていないのだが、直樹は悠里の気持ちを汲んでそれ以上は何も聞かないことにした。

「何かあったら言って下さい。俺で役に立つことがあれば」

直樹の差し出がましくない程度の申し出に悠里は、力なく二コリと笑って返すのがやっとだった。

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