恋人たちのパンドラ【完】
「えと、あの、どうしてここに?」

薄暗いエレベーターホールで悠里は疑問を投げかける。

「それよりもこんなところで深夜話していて近所迷惑にならないか?」

確かにそうだ。集合住宅は夜の共有スペースでの音は良く響く。

「かといって、お前の部屋に上がるつもりはない」

そういって、壮介は自分の背中に隠して持っていた花束をそっと悠里に渡した。

「今日30日だろ?お前の誕生日だ」

「へ?私の誕生日11月だよ」
壮介は自分の誕生日さえ忘れてしまったのかと一瞬悠里は悲しくなった。

「違う、これから9年分お前の誕生日を祝いたい。だから毎月30日は何か贈ることにしたんだ」

そうやって目の前にある花束は真っ白い小さな花が集まったアナベルでとてもかわいらしいものだった。

それを気まずそうに悠里に押し付けると、壮介は悠里の乗ってきたエレベーターに乗り込みそのまま下へと降りて行った。

突然のことに驚いて、悠里は花束を受け取ったまま、呆然と壮介の乗ったエレベーターを見送った。

部屋の鍵をどうやって開けたのか悠里は記憶が定かではないが、パンプスを脱ぎ捨てたままリビングに入るとペタンとフローリングに座り花束に顔をうずめた。
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