恋人たちのパンドラ【完】
(2)壮介の孤独
土曜日の午後。いつもは絶対に寄り付きもしない実家へと壮介は車を走らせていた。
梅雨入り前だが、空は厚い雲に覆われていてそれがなお一層壮介の心を暗くした。
高級住宅街の一角にある壮介の実家は外観は純和風で広い庭には今どきめずらしく、祖父の趣味であった立派な鯉が優雅に泳いでいた。
車をガレージに止めるとため息混じりで、玄関へと向かった。
「ただいまもどりました―――」
そう告げた壮介を迎えたのは、母親の秘書である川端だった。
「おかえりなさいませ。奥様があちらでお待ちです」
感情を一つも表に出さずにそう言った川端はいつ見てもロボットのようだと壮介は改めて思った。
母親が待つ部屋の扉を開けると、そこには紅茶のカップを手にこちらをチラリと一瞥した壮介の母親と世間で呼ばれる人物が座っていた。