恋人たちのパンドラ【完】
***

シラカシの木の下を走り抜ける。

ここですやすや眠っていた悠里に会ったのがついこないだのようだ。壮介は子供たちが笑顔で走りまわる中目的の建物にたどり着くと、職員の部屋へと急いだ。

「まぁ、めずらしい。ずいぶん立派になったわね」

あの頃よりずいぶんと皺が増えたシスターが壮介の手を握って嬉しそうに微笑む。

「ずいぶんとご無沙汰してしまって・・・」

「仕方ないわね、あんなことがあってあなたもここに近寄りがたかったでしょう」

「そう、そのことで今日はこちらに来たんです」

壮介はシスターが言う‘あんなこと’の内容を確認するためにここにきたのだ。

自分と悠里をつなぐのはもうここしか残っていない。

少しでも悠里についての手掛かりになるようなことを教えてもらおうとここまで来たのだ。

シスターは優しく撫でていた壮介の手を離すと、ソファに腰掛けるようにと手で促した。

そして自分は窓際に立ち、庭で駆けまわる子供たちを見ながら話し始めた。
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