恋人たちのパンドラ【完】
「君が一体、私に何の用だ。もとい、悠里にどういった用件だ?」

そう固く言い放ち今にも胸倉に掴みかかりそうな勢いさえある。

「その節は大変失礼をいたしました。お怒りもごもっともだと思います」

そういって、立ち上がった壮介は膝に頭をつけて兄、仁に謝った。

「俺に謝られても困る。あの時悠里はどれだけ傷ついたと思ってるんだ。それを何も知らずにお前はどれだけ悠里が苦しんだかわかってるのか!?」

我慢していた怒りが本人を目の前にすると、抑えが利かなくなったのだろう。

壮介の胸倉をつかむと激しくゆすった。

体格のよい仁に揺さぶられ、壮介の頭ががくんがくんとなる。

「本当に申し訳ありませんでした、でもどうしても・・・」

「どうしても何だ?」

仁はやっと壮介を解放した。

「どうしても俺、悠里に会わないといけないんです。9年前と同じ過ちを繰り返すわけにはいかないんです」

そう言って、患者のいなくなった無機質な待合の床に土下座をする。
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