恋人たちのパンドラ【完】
***

四国に嫁いだ叔母の家はミカン農家をしながら小さな商店を営んでいた。

最近は田舎と呼ばれる叔母の家周辺にもコンビニができ、決して経営が楽なわけではなかったが、昔からこの店に通っているお客さんが全員死ぬまではこの店は潰すなと、先代から受け継いだ時に固く誓わされたと言っていた。

悠里はつわりが収まるとそこの店のレジの前に座りポツリポツリとくるお客さんの相手をしていた。

厄介な妊婦の居候を抱える叔母へのせめてもの償いと思い始めたが、お客さん一人一人が悠里とおなかの子に毎日声をかけてくれた。

叔母の夫に当たる人も、身重の悠里を快く受け入れてくれ近くの評判の良い産婦人科を探してくれた。

店番をしながら通りをはさんである海を見つめ、おなかの子に話しかけるのが悠里の日課だった。

10月に入った検診でおなかの子は男の子だとわかった。壮介にそっくりの男のだったらいいのにと思い、いや元気であればそれでいいと思いなおす日々を続けていた。

今の悠里を支えているのは、間違いなくおなかの子。

壮介と悠里の血を分けた宝物――。

その子がおなかにいる事実だけで悠里は十分に幸せだった。
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