恋人たちのパンドラ【完】
実際に病院に足をむけたものの、院内に入るのをためらっていた。

悠里を信じていないわけじゃない。しかし実際にそこに悠里の姿をみつけてしまったら・・・。

壮介は正気でいられる自信がなかった。

(信じている、信じていたい。自分が自分を託せるたった一人の女だから)

壮介が病院の門の前で自分と悠里の培ってきた短いけれど濃密な、他の何物にも変えられない信頼を思いだし、一歩足を進めようとしたとき、病院の玄関から今最も会いたくない相手が出てきた。それも男性と一緒に。

(悠里・・・)

やっと動き出した足がそのまま止まった。地震など起きてないのに壮介の足元だけグラグラと揺れて、それが脳まで達した時、

「悠里!」

自分でもびっくりするぐらいの大きな声でその名を呼び、そして駆け出していた。

悠里のところまでたどり着くと、そばにいた男から悠里を引き剥がして肩を抱いて悠里の顔を覗き込んだ。

「いったい、何やってるんだよ!」
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