恋人たちのパンドラ【完】
「もう、泣くなよ。おなかの子供がびっくりするだろ」

そう言って、優しく指先で涙をぬぐってくれる。

「お前が怪我しなくてよかった。

変な言い方だけど俺刺されけど、幸せだよ。

俺にもちゃんと守るものができたんだって。

命をかけても惜しくないものがこの手の中にあるんだってそう思えた」

「壮介・・・」

「今まで、自分以外の人間を信用してこなかった。

母親が死んで、碓井に引き取られるまで2年間ひかり園で生活してたんだ。

その2年の間大人たちの汚い駆け引きをみて俺は道具なんだって、誰も守ってくれない、いい顔する奴はいつも俺を利用したいだけだった。だけど」

「うん」

「悠里に会って、初めて自分の心を預けていいと思える相手に出会えたと思えたんだ」

握られていた手にギュッと力が入る。

「そんな壮介を9年前私が傷つけたんだね」

辛そうに話す悠里の髪を壮介が耳にかけた。
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