恋人たちのパンドラ【完】
「ここに来てるのは分かってるのよ。ここを通しなさい!」

どたどたと廊下を歩く音と叫び声が聞こえ、襖がパーンとあいた。

「美津子!」

壮介の父親は驚いたのか持っていたグラスを乱暴にテーブルに置いた。

「こんなところで私に隠れて、何の相談かしら?私をないがしろにするなんていい度胸だわ!」

金切声と言うのはこういうのだという見本になりそうなほど、キリキリと癇癪を隠そうともせずに壮介の母親は怒鳴り散らしていた。

「このあばずれに、碓井の家も、三国もめちゃくちゃにされてしまうんだわ!そうだわ!」

そう言って、悠里に近づこうとした美津子を、壮介が立ちあがって右手を挙げて制止した。

「いい加減にしてください、お義母さん。はずかしくないんですか?」

睨みつける壮介の顔をみて

「あなたこそ、恥ずかしくないの?2度もこの女に騙されるのよ」

「俺は一度だって、悠里に騙されてなんていない。すぐに謝ってください」

そう大声を張り上げた。

睨みあう二人の間に入ったのは、泰三だった。
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