恋人たちのパンドラ【完】
「そんなことないよ。

小さい頃はわからなかったけど人間って大人になればみんな色んな事情をかかえて生きてるんだって理解してるから。

それにお母さんがくれた愛情はちゃんとこの子に伝えて行くつもりだよ。」

そうやっておなかをさする。

そうやっていると陣痛の波が来て、悠里は声も出さずに、額に汗をうかべ息を整えようとする。

母親の腰をさする手にも熱がこもっていた。

「悠里、大丈夫か?」

飲み物を抱えた壮介が、駆け寄ってくる。

「あら、ずいぶん早かったのね」

母親は壮介の態度に苦笑する。

「あの、はい。こんなに苦しんでるんでるんですけど、大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。女性はみんなこうやって子供を産むの。自分の愛しい子供をね」

悠里の母親は汗ではりついた髪を頬から外してあげた。
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