恋人たちのパンドラ【完】
***
「ようこそ、三国百貨店へ」
そう言った壮介は顔に笑みはあるものの、本当には笑っていなかった。
悠里はぶるぶると震える唇で壮介の名前を呼んだものの、それは声になってはいなかった。
唇の震えは全身に駆け巡り、自分の身体を両手で抱きしめてその震えを押さえて、そこに立っているのが精いっぱいだった。
「どうぞこちらへ、お掛け下さい」
一方の壮介は悠里のことなど、知らないという態度を取ったままソファへと腰をかけた。
壮介に促された悠里は、最初の一歩を踏み出すことができずに、壮介の顔を眺めたままだったが「徳永さん」と催促されて、ハッと我に返りなんとか足を進めてソファに腰掛けた。
悠里は冷たく震える指先を隠そうと強く拳を握り締め膝の上に置いた。
(落ち着いて・・・もう9年も昔のことよ)
自分に言い聞かせて、目の前にいる自分をこれほどまでに動揺させる相手に目を向けた。
悠里の記憶にある壮介は、さらりと黒髪をたらして今よりも幾分か日に焼けていた。豪快に笑うときにみせる白い歯が印象的で、そんな笑顔を見せる壮介がまぶしくていつも目を細めて見つめていたのがよみがえってきた。
「ようこそ、三国百貨店へ」
そう言った壮介は顔に笑みはあるものの、本当には笑っていなかった。
悠里はぶるぶると震える唇で壮介の名前を呼んだものの、それは声になってはいなかった。
唇の震えは全身に駆け巡り、自分の身体を両手で抱きしめてその震えを押さえて、そこに立っているのが精いっぱいだった。
「どうぞこちらへ、お掛け下さい」
一方の壮介は悠里のことなど、知らないという態度を取ったままソファへと腰をかけた。
壮介に促された悠里は、最初の一歩を踏み出すことができずに、壮介の顔を眺めたままだったが「徳永さん」と催促されて、ハッと我に返りなんとか足を進めてソファに腰掛けた。
悠里は冷たく震える指先を隠そうと強く拳を握り締め膝の上に置いた。
(落ち着いて・・・もう9年も昔のことよ)
自分に言い聞かせて、目の前にいる自分をこれほどまでに動揺させる相手に目を向けた。
悠里の記憶にある壮介は、さらりと黒髪をたらして今よりも幾分か日に焼けていた。豪快に笑うときにみせる白い歯が印象的で、そんな笑顔を見せる壮介がまぶしくていつも目を細めて見つめていたのがよみがえってきた。