恋人たちのパンドラ【完】
「ずいぶんと楽しそうだな」
角をまがった瞬間に冷たい声をかけられて身体がびくっとなる。
顔を上げるとそこには腕を組んで壁にもたれかかっている壮介だった。
「ここが取引先だってこと忘れてるんじゃないか」
刺すような視線で悠里を射る。
「そ、碓井専務――」
急に声をかけられ、心の準備ができていなかった悠里はひどく混乱していて、近付いてくる壮介をただ仰ぎ見るだけだった。
「お前は誰にでも、こういうことさせるのか?」
そう言って、そう壮介の長くて骨ばった指が悠里の頬を伝う。
その冷たい指先が頬を伝った瞬間、悠里の身体の中心がゾワリとし、そして熱を持った。
さっきまで壮介が壁にもたれていたはずなのに、気がつけば悠里は壮介と壁の間に挟まれ身動きが取れなくなっていた。
「ち、がう。あれはたまたま髪が・・・」
しどろもどろになりながら言い分けをする悠里を、目を細めたまま壮介は見つめていた。