恋人たちのパンドラ【完】
「あの、指どけてください」

自分よりもずっと高い位置にある壮介の顔を見上げて、戸惑いを隠せないまま言う。

「あいつには触らせて、俺はダメなのか?」

ますます目を細めて、悠里を見つめてくる

「そういうことじゃない・・・です」

これ以上どう言ったらいいのか悠里は困り果てていた。

昔からそうだ。悠里は口で壮介に勝てたことなど一度もなかったことを思い出した。

縛られたように身動きの取れない悠里は思いあぐねていた。

間違いなく困った状況であるのに、久しぶりに近くで見る壮介の顔に胸がキュンとときめくのを感じた。

ここから早く逃げ出さなくてはという思いと、もう少し近くで壮介を感じていたいと思う気持ちがぐるぐると小さな悠里の胸を駆け巡っていた。
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