恋人たちのパンドラ【完】
「じゃ、俺もう行くわ。これで払っておいて」

そう言って背の高い男の方が、お札をすっと差し出して席をたった。

そして、相手の女の頭にぽんっと手を置いてなでた。


「私はもう少し飲んでいくね」

座ったままの女は上目遣いで男にそう答えていた。

壮介は自分の目がすでに酔ってしまっておかしくなっているのではないか？そう思いたかった。

その男女は悠里と、忘れもしない9年前に悠里と病院で一緒にいたあの男だった。

（何なんだよこのタイミング！）

壮介は二人をみて唇を噛み締めた。

あの男とまだ一緒にいるということは、自分の知らない9年間の悠里をあの男が知っているということなのか？

そう考えると壮介の心の中は嫉妬という黒い塊が体中を駆け巡った

体内で暴れ狂うその塊に思考が混乱させられていることも感じていたが、それは自分にはどうしようもできないことだった。
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