恋人たちのパンドラ【完】
男が先にラウンジを出て行った。

悠里はそこに座ったままで。目の前のカクテルグラスの口を指でなぞっていた。

その背中を見つめ壮介は自分の中で戦っていた。

このまま知らなかった振りをしてこの場を去るのが、スマートだとわかっている。

今悠里に声をかければ、思わず強い口調で責め立て彼女を傷つけるに違いない。それも理解している。

だけど、体は一向に言うことを聞かず脚は一歩も動かなかった・・・。

ロックグラスを両手で握り締め、固く目をつぶった。

そしてそのグラスを持ち上げ中身を一気に煽ったときに

「壮介?」

背中から悠里が自分を呼ぶ声が聞こえた。

壮介にはそれが壮介の心の答えを神によって運命として導き出されたような気がしてならなかった。
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