恋人たちのパンドラ【完】
ワインボトルをテーブルに置いた壮介は、自分のワイングラスを持ち一気にグラスの中身を飲んだ。

確かに二人は乾杯などするような仲ではないのだ。悠里もグラスを持ち一口ワインを口に含んだ。

きっと高いワインだろう。しかし今の悠里にその味を判断する余裕はなかった。

悠里はワインを口にしながら、一言も話さない壮介をちらりと見た。

壮介はワインボトルを手にし、自分のグラスへとなみなみとワインを注いでいた。

悠里の細い腕をつかんだ時に壮介を包む‘すずらん’の香りがした。

その香りに包まれた時、壮介の中でせき止めていた何かが大きく音をたてて崩れて行くのを感じていた。

壮介はボトルを置くと、半分ほどワインを飲みグラスをテーブルおくと、膝においた手を組み視線を下に落としたまま話し始めた。

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