恋人たちのパンドラ【完】
「もう、他にどうしたらいいのか俺にはわからないんだ。お前が俺のものにならないことは分かってる。ただあの9年前の約束。あれだけは果たしてくれないか?」

次は縋るような言い方された。そして悠里は言葉を選ぶようにしてゆっくりと答えた。

「わ、たし、壮介のものには、なれないの」

そう答えた悠里に

「わかってるよ!分かってる。だけどもう・・・俺の完敗だ!お前を腕に抱きしめたくて、心も身体もおかしくなりそうなんだ。今日一日でいい。今から朝まで、それだけでもうお前のことは忘れる。だから、これが最初で最後だから俺の腕にだかれてくれないか?」

好きな男性に熱くうるんだ瞳で求められて、断れる女性がいるだろうか・・・

ましてや一生心に住まわせると誓った相手。悠里はこの時、自分自身のために壮介の申し出を受け入れることを決意した。

壮介が握った手を反対の手で壮介の手ごと包む。

「分かった。今日だけだと約束して」

壮介にそう答えた悠里だが、自分にも同じように言い聞かせていた。


(今日だけ、今日だけだから)

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