家族
 無言のまま二人は歩いていた。
 初めのうちはなんとか会話をしようと、二人とも一生懸命に話題を探していたが、すぐに話題も尽きてしまった。もともと梨佳にとって春夫はただの友達の叔父でしかなく、昔からそんなに共通の想い出もなかった。その上、彼は唯一の接点である貞夫の話題もなんとなく避けているような節があった。
 梨佳は春夫を誘ったのを少し後悔していた。
「貞夫は学校ではどう?」
 突然春夫が振ってきた。しかも今まで避けてきた話題を、である。梨佳は一瞬戸惑ってしまった。それを春夫は梨佳が答えにくいのだと解釈したらしく、
「あいつ、あんな風になっちゃったもんなあ」
と、ぽつんと言った。
「そ、そんなことないですよ」
 思わず梨佳は大きな声を出した。言ったあとで、一体何がそんなことない、なのだろうと自分自身で思った。
 春夫が不思議そうな顔を向けてきた。梨佳は慌てながら続けた。
「貞夫君はうまくやってますよ。うん、友達も多いし、そりゃ、ちょっと悪そうなところはありますが、なんていうかその、いいところもあります」
 あまりの情けなさに、梨佳は泣きたくなってきた。
 なんとか春夫を安心させなきゃと言う思いと、貞夫を庇いたい気持ち、なんとか言葉をまとめないといけないと言う焦り、そんな様々な感情が入り混じって彼女はどんどん混乱していった。

 ぷっ、と春夫が吹き出した。そしてそのまま腹を抱えて笑い出した。梨佳は一体何が起きたのか分からずに春夫を呆然と見詰めた。

「ごめん、ごめん・・・」

と、言いながらも彼はまだ笑い続ける。何がそんなに可笑しいのかと、梨佳は少しむっとしたが、いつまでも笑い続ける彼を見ているうちに、なんだか自分でも可笑しくなってきて、最後には梨佳も笑い出してしまった。二人はそのまましばらく笑い続けた。



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