家族
 暗がりに赤い光が動いている。貞夫の煙草の火だった。貞夫は煙草を吸いながら家に向かっていた。
 時刻は七時を回ったばかりで、貞夫にしては早い帰宅だった。
 昨晩春夫に仏壇の前に座っているのを目撃されたことが、今更ながらに気恥ずかしくなり、今日は少し早めに茜に手を合わせようと思ったのである。
 煙草が短くなったので貞夫は煙草を投げ捨て、新しい煙草を取り出し、火を点けようと立ち止まった。制服のポケットの中からライターを探し煙草に火をつけ、何気なく横を見て、ふと貞夫は目をとめた。そこには昔よく行った公園があった。貞夫の目は砂場に向けられていた。砂場には梨佳がいた。梨佳はぼんやりとした様子で砂をいじくっていた。
 貞夫は一瞬迷ったが、公園に向かって方向転換し、梨佳の方へ歩き始めた。

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