家族
「よう。」
　貞夫は声をかけた。
　梨佳は驚いたように貞夫のほうに顔を向けたが、それが貞夫だと分かるとさらに驚いた顔をした。
「その年で砂遊びか？」
　貞夫はにやりと意地悪な笑みを浮かべた。
「また、煙草・・・」
　梨佳が口を尖らせた。しかし、その声にいつもの元気はなかった。
　貞夫は拍子抜けしてしまった。梨佳がムキになって怒ってくるのを期待していたのだ。貞夫は言葉に詰まってしまい、視線を梨佳の手元に落とした。そこには小さな砂山があった。砂山には小さなトンネルが掘られようとしていた。が、トンネルは、不器用な掘られ方をしていて、今にも崩れ落ちそうである。
　貞夫の視線の先が、自分の創っている砂山を見ていることに気づき梨佳は慌てて砂山を崩した。
「何よ？」
と、梨佳が頬を膨らませて睨んできた。いつもの強がってた子供のようなその仕草に、貞夫はどきりとした。
　梨佳が不思議そうな顔をしたので、貞夫は慌てた。
「不器用なんだよ。貸してみろ。」
　貞夫は内心の動揺を悟られまいと、砂場にしゃがみ込み砂山を作り器用な手つきでトンネルを掘り始めた。
（何を慌ててるんだ、俺は！？）
　貞夫は焦った。焦りながらも手はトンネルを掘っていた。
　梨佳が感心しながらトンネルを掘るのを覗き込んできた。
　砂山が崩れた。

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