家族
 梨佳は、いつの間にか気持ちが楽になっていた。貞夫から話しかけてくることは珍しいので、始めは驚いてしまったが、こうして話をしているとなんだか懐かしい気持ちになった。
 梨佳は受験で追い詰められていた。
 吹奏楽部の活動は、今度の大会を最後に引退することになる。大会まであと一週間ほどしかなかった。そのため、梨佳は毎日遅くまで吹奏楽の練習に取り組んだ。部活と勉強。今まではなんとか両立させてきたが、高校三年生になり、周りが受験モードになると急に梨佳は焦りを覚えた。その焦りは梨佳をスランプに陥らせた。そのせいで、梨佳はこの間の実力テストの成績を少し下げてしまった。下がったのは、ほんの少しではあったが、今の梨佳にとってそれは大きな痛手であった。どうしたらいいのか分からなくなり、梨佳は途方にくれていたのだ。
 梨佳は何気なく貞夫に今の悩みを打ち明けた。もしかしたら軽く笑い飛ばされるかも、と梨佳は思ったが、予想に反して貞夫は黙って話を聞いてくれた。
 一通り話し終えても貞夫は何かを考えながら黙ったままだった。その手は無意識に砂で何かを形作っていた。
< 33 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop