家族
声の主は貞夫のよく知った女だった。
長い髪を後ろで三つ編みにした、顔立ちの整った美しい少女である。
彼女は貞夫と同じクラスの女子生徒で、クラス委員をしている。彼女の名前は梨佳。貞夫の幼馴染(貞夫が言うにはただの腐れ縁だが)である。
成績優秀、容姿端麗で、性格も明るく誰にでも優しい、そんな優等生を絵に描いたような彼女であるから、もちろん周囲の生徒からの人気も高く、教師たちからの信頼も厚い。一方、貞夫のほうは彼女とは正反対で暴力的・野蛮・下品の代名詞のような男で品行方正の欠片もない。
当然、梨佳の周囲の人間は、貞夫に普通に接する梨佳を、いつも信じられないという顔で見つめ、陰で危ないからやめろと言ってくる。だが、当の彼女はそんなことまったく気にする様子もなく、あげく貞夫を怒鳴ったりもする。

そんな彼女であるから今日も当然のように怯むこともなく睨み返してきた。

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