家族
2
梨佳は家に向かって自転車をこいでいた。かなりスピードが出ている。もう辺りはすっかり暗くなってしまい、人通りの少ないこの道では、自転車をこぐ足につい力が入ってしまう。
彼女は吹奏楽部に所属しており、今日はその練習が思ったよりも長引いてしまったのだ。ペダルをこぎながら、ちらりと腕時計を見ると、もう八時になろうとしていた。
彼女はスピードを落とさずに曲がり角を曲がった。
角を曲がって彼女はどきりとした。少し先のところに動くものが見えたのだ。思わずブレーキに手がかかったが、その動くものがただのサラリーマンだということに気づき、ほっとした。
サラリーマンは梨佳に背を向け、とぼとぼと歩いていた。そのサラリーマンは背広に坊主頭だった。梨佳はその後姿に見覚えがあった。
「春夫さん!」
自転車をこぎながらサラリーマンの背中に梨佳は声をかけた。サラリーマンの背中がびくりと反応し、そしてゆっくりと振り向いた。彼は自転車で近づいてくる梨佳の姿を認めると、じっとこちらを見つめてきた。
梨佳は春夫のところまで自転車を走らせると、とんと地面に降り、
「お久しぶりです!貞夫君の同級生の山下梨佳です!」
と名乗った。
それを聞いて、春夫は「ああ」と小さく言い、
「梨佳ちゃんか、大きくなったね」
と、笑顔をつくった。しかし、梨佳にはその笑顔に元気がないように思えた。
彼女は吹奏楽部に所属しており、今日はその練習が思ったよりも長引いてしまったのだ。ペダルをこぎながら、ちらりと腕時計を見ると、もう八時になろうとしていた。
彼女はスピードを落とさずに曲がり角を曲がった。
角を曲がって彼女はどきりとした。少し先のところに動くものが見えたのだ。思わずブレーキに手がかかったが、その動くものがただのサラリーマンだということに気づき、ほっとした。
サラリーマンは梨佳に背を向け、とぼとぼと歩いていた。そのサラリーマンは背広に坊主頭だった。梨佳はその後姿に見覚えがあった。
「春夫さん!」
自転車をこぎながらサラリーマンの背中に梨佳は声をかけた。サラリーマンの背中がびくりと反応し、そしてゆっくりと振り向いた。彼は自転車で近づいてくる梨佳の姿を認めると、じっとこちらを見つめてきた。
梨佳は春夫のところまで自転車を走らせると、とんと地面に降り、
「お久しぶりです!貞夫君の同級生の山下梨佳です!」
と名乗った。
それを聞いて、春夫は「ああ」と小さく言い、
「梨佳ちゃんか、大きくなったね」
と、笑顔をつくった。しかし、梨佳にはその笑顔に元気がないように思えた。