雨情物語④<水溜まり>
あたしが水鏡みたいな空(実際は水溜まりの向こう側なんだけど)を見ていると、赤いレインコートの人が楽しそうに飛び越えるのが見えた。


たぶん、もう三日くらい、あたしは水溜まりの中にいる。

閉じ込められてるわけじゃない。
自分の意思でここにいるんだ。


あたしが立ち上がっても、水溜まりの上に顔が出ることはない。
そんなに広くもない。例えるならユニットバスくらいの広さの、不思議な空間。


何気に面白かったりする。

猫が水溜まりの水をペチャペチャ舐める時の顔なんか、下から見てると不細工で。

ただ、あたしが猫を見て「ぷぷっ」って笑ったら、猫が喋った気がした。

――― そんなとこで笑ってんじゃねぇよ、ブス。

いやいや、猫は愛玩動物。そんなお口が悪いわけないか。

あたしは、うーんと伸びをする。
閉鎖された空間。眺めのいい独房。

雨は、まだやまない。

< 3 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop