雨情物語④<水溜まり>
水溜まりの中から、降ってくる雨を見ながら気付いちゃった。


雨は水溜まりの中に溶けても、水溜まりにはならない。
水溜まりの中に、一粒一粒がちゃんと独立している。

一粒の個性が、うるさいくらい主張している。

何を主張している?


耳を澄ませないと。
雨の声は心臓の音より小さいんだから。

主張が不快でないのは、そこにカースト制度がないから。

ああ、嫌なことに気付いてしまった。
カースト… くっだらない。


――― 気付いてしまいましたか。

ふいに聞こえた声に顔をあげると、いつかの赤いレインコートが見えた。

レインコートの袖が水溜まりの中に入ってきて、あたしはその手をとった。


水溜まりから引っ張り出されたあたしは、ありがとう、と小さく言った。


「ありがとうって顔ではないみたいですけど」

うん、確かに。
もう少しだけ、心地好い独房にいたかったかも。

でも、いつまでも一人でいるわけにはいかないし。


「いいの、まだ木曜日だよね。学校に行かなくちゃ」

あたしは得意の何もなかった顔をして、水溜まりの向こう側にある学校へ向かった。




雨情物語④<水溜まり>
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