【イル・モンテ・カフェ】
【爪】
隣の席でしゃべっている女子校生をみて、私は軽くため息をついた。
二人組で綺麗にお化粧をしてネイルも綺麗にしている。
私はその姿をみて羨ましいと思った。
自分の姿をかえりみる。紺のスーツに黒いバック。白いパンプスは半ばよれて弱っている。
私にはあんな時代なかった。
高校時代の私は異端だったろう。
きっちりした三つ編みにすっぴん。制服も無改造。
ひどく野暮ったい格好をしていた。
プライベートも似たようなものだ。
おしゃれのひとつでもと思ったこともある。
でもお化粧をする勇気はなかった。
父がとても厳格な性格をしていた。
なにもかも管理されていた。
いまの会社に入ったのも父の意見だ。
仕事に不満はない。職場の人間関係にも多少居心地の悪さを感じるが我慢出来ないほどではない。
だが私は疲れていた。
母が失踪してからもう何年になるだろう。
家事もして仕事もして。
毎日会社と家との往復で終わってしまう。
だからほんの少しの贅沢としてこの喫茶店に通うようになった。
駅から少し外れた小さなお店。
店内はログハウスっぽく、棚には多くの食器が並べられている。
マスターは初老の男性だ。彼の淹れる珈琲はとても美味しかった。