【イル・モンテ・カフェ】

「悪ぃ。遅くなったわ」

時間は十一時を少し過ぎていた。約束の時間から一時間は待たされたというわけだ。

「ここの支払いしてよね」

「へいへい」

彼に伝票を押し付ける。こんなことももうなくなる。
今日は特別な日になるのだ。

「ねぇ、私話があるんだけど・・・」

「あ、ちょっと待った。俺が先に話したい」

「?」

もしかして彼もおなじことを考えているのではないかと思ったら決意が揺らいだ。

「ちょいお借りします」

そういって彼が私の左手を掴む。
荒れてごわごわになった手。ひび割れた爪。
私のコンプレックス。

「は、離して」

「ほい」

「え?」
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