かえるのおじさま
子供たちですら、手伝いのために出払っている。
馬車に残されたのは美也子一人なのだから、ネックレス作りはたいそう捗った。

それでも窓の外から時折、威勢のいい掛け声など聞こえてくる。

作り上げた12本目のネックレスを床において、美也子は目を閉じた。
ギャロの声が聞こえる。

ここからでは何を言っているのかまでは聞き取れない。
作業の指示などしているのであろうが、ただの大声として認識できるだけだ。

それでも喧騒の中から切り取るように、彼の声だけを拾うことができる。

昨晩、雨音よりも近くで聞いた声……夫婦の蛙のように啼き交わし、男女としてつながった行為を思い出すと、少し……疼く。

彼の唇が触れた証を確かめたくて、美也子は襟元に手をかけた。

そのとき、扉を叩く小さな音。

「はいっ!」

慌てて返事を返すが、扉はもう一度小さく鳴る。

「だあれ?」

乗り合いの仲間が忘れ物でも取りに来たのかと思ったが、それにしては小さな手で叩く音だ。

座長のところの甘ったれ娘か、それとも他の子供たちか……
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