かえるのおじさま
こんなに惑う必要など無いはずだ。

彼の名前を、そして伯父なのだということを伝えれば言いだけの話……震えているのは、それに続く彼の残酷な生い立ちを教えることをためらってなのだ。

「ねえ、あのおじちゃんの名前は!」

さっきより少し強い少女の言葉に、美也子の体がびくりと慄いた。

(ああ、そうか……怖いんだ)

昨晩、やっと重なった肌。
それは少し体温が低く、人間よりも柔らかく粘るように張り付く皮膚が心地よかった。

そして肌のふれあいの中で、やっと手に入れた彼の心!
それを失うことが怖いのだ。
勝手に彼の過去の傷に触れるような真似をして、嫌われることが恐ろしい。

それでも、幼子の声は容赦なかった。

「お姉さんは、あのおじちゃんの奥さんじゃないの?」

その言葉が、美也子の心をほんの少しだけ押し上げる。

ギャロは言ったではないか、「結婚の腕輪を買おう」と。
今朝だって甘い甘い、ただ甘ったるいキスを交わしたではないか。

あれはただの甘美な愛欲ではない。
これから掛かる辛苦も、諍いも、すべて二人で乗り越えようと言う真心の愛なのだと信じるべきだ。
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