かえるのおじさま
しかし、これが生業であるのだから、それを許すわけにはいかない。
店主の裁量でおまけしてやる事はあっても、不正を働く者に景品を渡すわけにはいかないのだ。

だから、子供たちにしっかりと目を配り、ルールを守らせることが一番の仕事なのである。

今もまた一人、ヤギ頭の少年が足元に落ちていたわっかを拾い上げた。
こんなとき、ギャロは声を荒げたりはしない。
その行為に目配りしながら、少年が自らわっかを返してくれるのを待つ。

だが、その少年は拾ったわっかを手に、地面に引かれた線の前へと進んだ。
ここらが限界である。

「おう、拾ってくれたのか。ありがとな」

ギャロは、気さくな声音、間抜けたほどの笑顔で手を出した。

少年は少しバツが悪そうにあたりを見回したが、そもそも店主が何の疑いも無いふうなのだ。
彼のいんちきを疑う視線はない。
だから少年は、安心してギャロにわっかを渡した。

「ガキってのは、大人がちゃんと見てやらなくちゃあならん」

ギャロは美也子に言う。

「この屋台の前にいる間は、どのガキも自分の子供だと思ってみてやるんだ。そうすれば、ちょっとしたいたずらを企んでいることぐらいは、わかるんだよ」

「ギャロは、いいお父さんになりそうね」

「おとっ!」

彼は恥ずかしそうに目を伏せ、美也子の手をとる。

「お前は……こっちの世界の人間じゃないからな、そこまで望んじゃいないさ。でも、俺は……」

わっと押し寄せた子供の一団が、その言葉尻を奪った。

「おじさん! わっか!」

「あああ、あいよ!」

まったくこんな調子であったのだから、美也子は忙しくして午後を過ごした。
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