かえるのおじさま
ギャロのもとに金の無心に訪れた母親は、こうも言っていた。

『だって、仕方ないじゃない! 今度の夫はこの子のことを知らない。家には最初っから居なかったことになっている子なんだよ! いまさら、どうやって説明すればいいのよ!』

その言葉は二十数年たった今でもことあるごとに胸の奥を抉る。
あの瞬間、自分は母親から完全に捨てられたのだと自覚したものだ。

だが、目の前の弟は実に親しげに話しかけてくる。
まるでつい昨日別れた兄に挨拶でもするような気安さだ。
母がいかにギャロのことをよく話して聞かせたか、うかがえもしよう。

「二人目の父さんとは、長く続かなかったんだ。ナルー兄さんが学校を卒業した年に別れたんだよ」

自分の産んだ子を隠さなくてはならない重圧に耐えきれなかったのだと、母は言ったそうだ。

それからは貧乏であった。

日銭を稼ぐような仕事を転々としながら、この村に流れ着いたのが八年前。
村の農家にこの弟が入り婿したことで、一家の生活はようやく安定したのである。

「俺は何度も母さんに勧めたんだ。兄さんを迎えに行こうって、ね。でも、母さんは頑固だからさぁ」

道化師として華やかな成功を知っている息子が貧乏生活に耐えられるわけは無いと、それは頑なな態度であった。
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