かえるのおじさま
そこには短い悔悟の言葉がつづられていた。

『私の最後の願いは、もう一度だけお母さんと呼ばれることでした』

それは、ギャロの願いでもあった。
もう一度だけ、無邪気な心地でその女性を母と呼び、ただ抱きしめて欲しかった。

「いい逃げかよ……」

うめき声をどう捉えたのだろうか、ギャロリエスが不安そうに目玉を回した。

「おばあちゃんは、お買い物のお釣りをいつもここに入れていたの。おじちゃんが旅座をやめるときに、借金を返せるようにって……足りなかった? 足りないなら、私のお小遣いもあげる」

「ガキが金の心配なんかするんじゃない」

ギャロはギャロリエスを抱き上げる。
それは本当に親愛の情をこめた、伯父としての所作であった。

「だいたいが、俺はここの暮らしが気に入ってんだ。みんな気のいい連中だし、飯は旨いし、それに、俺が輪投げ屋だったら、お前にこっそりおまけしてやれるだろ?」

「それに、きれいなお嫁さんもいるし、ね」

「が! ガキがそういうマセたこと言うんじゃねえよ」

頬を寄せるようにして言葉をかける伯父と姪、それはきっと、ギャロの母親が一番望んだ光景であろうに、ここに、その母はいない。

それが美也子には悲しかった。

「ねえ、ギャロ、お墓参りに行っておいでよ」

「は? 今からか? そんなの、無意味だろ」

こちらでの墓参りと言えば、生きている者たちが思い出を語り合うために墓前で宴会を催すことを言うのだ。
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