かえるのおじさま
(まったく、情けない次第だ)

美也子とギャロは安酒場の隅に差し向かいで座っている。
売り上げは全て集計に渡し、高級菓子で痛手を負った彼のサイフでは、これがせいぜいなのだ。

「ご祝儀、使えばいいのに」

「それはやめておけ。ちゃんと計算して、三割を一座に渡す決まりだ」

「三割も!」

「もちろん、ちょろまかすのは簡単だ。だが、そういうやつはまず間違いな
く嫌われる。いつまで居ることになるか解からん以上、肩身の狭い思いをしたくはないだろう?」

若い猫頭の店員がジョッキを二つ、テーブルに置いた。

「簡単で悪いけど、初舞台の打ち上げだ。好きなものを頼め」

ギャロがジョッキを上げる。

「乾杯だ。あ、乾杯って、解かるか?」

「乾杯くらい、知ってるわ」

美也子が軽くジョッキをぶつける。笑いながら一口を呷った彼女は、すぐに歓喜の声をあげた。

「美味しい! 麦のお酒ね。私の世界ではビールって言うの!」

「へえ。こっちじゃあベロゥって言うんだ。似てるな」

しゅわりと喉を掻き落ちる炭酸の強さ、ホップの苦味、麦の臭み……

「本当に……似てる」

美也子の双眸からぽろりと涙がこぼれた。望郷の思いに囚われた身には、帰る手立てすら思い及ばない世界を思い出させるその味が、やたらにしみる。
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