かえるのおじさま
自分でも良くは解からない。頼る者の無い世界に落ちてしまった彼女を憐れんでいるのは確かだ。それを何とか助けてやりたいと思うのは、おせっかいな自分の性分だろう。

だがここまで踏み込んで……感謝の気持ちまで買い取ろうとしている理由は?

「……俺は孤児だ」

言葉と共に理由を探す。

「人一倍、家族ってモンに憧れがあってな」

山羊頭の親子のむつまじい光景が、脳裏に浮かんだ。

「だから執着しちまうんだろうな」
 
どれほど望んでも、親に手を引かれるような子供の頃に戻れないことなど知っている。

「俺の精神的な満足ってやつだ。俺は一生家族ってものを知ることはないだろうから、せめてお前を家族のところに返せば、なんとなく家族ってものに触れたような気になれるだろう?」

「よく解からないけど、そういうものなの?」

「たぶん、そういうものだ。だから、俺が俺の勝手でやることだから気にするな」

ギャロは目玉をグリグリと回して笑った。

「まあ、それもいつになるかって話だからな、もう少しこの世界のやり方ってのを覚えたほうがいい」

ギャロは紙幣を取り出し、何気ない仕草で美也子に差し出す。

「こうやって出されたら、普通にご祝儀だ。遠慮なくもらえばいい」

旅回りの木戸銭は、出し物にもよるが決して高いものではない。祝儀も大事な収入のうちだと、美也子は座長から教わった。

「だがな、これはダメだ。絶対にもらうな」

ギャロは先ほどの犬頭のように、紙幣を両手で挟みこむ。

「それは、なんでダメなのよ?」

「なんでって……」

土緑色の顔が高潮し、大きな目玉がせわしなく動く。喉元から蛙鳴がこぼれた。

「……『お前を買ってやる』のサインだ」
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