かえるのおじさま
「全く、ばかをやらかしたもんだ」

二人きりの馬車の中で、ギャロは頭を抱えて呻いた。
ピンクのドレスの前たてを閉じ終えた美也子が、蛙顔を不安そうに覗き込む。

「やっぱり、座長に怒られる?」

「ああ、それはまあ決定事項だが……おい、曲がってるぞ」

胸元を飾るリボンを直してやりながら、ギャロは下瞼を僅かに引き上げて申し訳なさそうな表情を見せた。

「その……勝手に女房扱いなんかして……申し訳なかった」

美也子がふいと顔を背けたのは、怒っているのだろうか。
不安が彼を饒舌にする。

「あの場ではあれしか思いつかなかったんだ。とりあえず旦那持ちだと解かれば余計なちょっかいを出すものもいなくなるだろうし、座長にも言い訳が立つ」

そうだ、座長にも今頃は事の顛末が伝わっているだろう。
あちらにも言い訳を用意しておかなくてはならない。

「もしお前さえ迷惑じゃないなら……このまま婚約者ってことにしておかないか。そのほうが、お前を守ってやるには都合がいい」

返されたのは幾分沈んだ声だった。

「つまり、偽物の婚約をしようってことね」

その落胆が癇に障る。

恋愛の感情では無いとしても、少なからぬ好意はもたれているのだと自惚れていた。
彼女を守るための偽婚約ぐらいは許されるのだろうと。
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