かえるのおじさま
「わっしょい」と大きな声が上がり、ギャロは担ぎ上げられた。
実に手荒な祝福だ。

「ほら、花嫁さんも」

女連中は美也子の手を引き、背中を押す。
逃れようなどありはしない。

ギャロと美也子は馬車の中に放り込まれてしまった。

いつもは六人ほどで雑魚寝する賑やかな箱中も、二人では広すぎるぐらいにがらんとしている。

ギャロはぼんやりと座っている美也子に声をかけた。

「おい」

「はいっ?」

よほど緊張していたのだろう。驚いた顔と素っ頓狂な声。

「何もしない。そんなに怖がるな」

「そうよね、やっぱり」

美也子の肩から力が抜ける。
それは安堵というよりも、落胆のように見えた。

「この世界に来てから、ずっと思ってたの。醜怪種って言うぐらいだもん。やっぱり醜いのよね、私」

「そうじゃない。お前は本当にこの世界のことが解かってないなぁ」

言葉を選ぶ隙を作ろうと、ギャロは大きく息を吸う。
迂闊に褒めれば、このまま流れにのって抱くハメになりそうだ。

それは本意ではない。

「醜怪種って呼び方は、他の種族から身を守るためのものだったと考えられている。自分の容貌を見せないために、醜い面をつけて暮らしていたからだとも云われていてな」

ギャロは美也子の白い頬を見た。
馬車の薄明かりにさえ染まる、柔かそうな頬を。

「つまり、そうまでしなきゃならんほど美しいんだ。神の次に美しい生き物、といわれている」

なるほど、美也子は美しい。
おそらく醜怪種の中でも、相当に美しい部類に違いない。

だからなのだろう。触れたいと思うのも、不埒な行為に沈めてしまいたいのも……
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