かえるのおじさま
「偽物ではあっても、俺たちは夫婦だ。それに、俺はお前が異界人だと知っている。だから、隠さなくていい」

「何を?」

「夜中に泣いているだろ」

「泣いてないっ!」

ぷい、と背けられた横顔はあくまでも強気だ。
それは天に向けて開いた花に似て、危うげな強かさ。

ギャロは有無を言わさずそれを捕え、腕の中に抱き込む。

「隣で寝ているのに、気づかない訳がないだろう。ああいう時は俺に甘えてくれ」

美也子は思った。
ここで素直に甘えておけば、さぞかし可愛らしく見えることだろう。

幅広い胸に擦り寄って涙の一つでもこぼせば、彼は満足するだろうか。
望郷と不安がない交ぜになった複雑な心中を明かせば、あるいは、本当の妻にと欲してくれるのでは? 
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