やむ落ち。
坂野と松本
「松本さんって、桜さんとは長いんですよね?」
ある日後輩の坂野がそんな雑談を始めた。
ボクの上司の鈴木桜との付き合いは長いといわれれば長い。
ただ、彼女の場合は入社当時から、ずっと上司部下という形に近い人間がいるので、ボクが特別長いわけではない…と思うのだが。
「まぁ3年くらいかなー。この部署ができてからだから」
「へー。最初、ああいうきれいな女子が上司とか何か思ったりしなかったんですか? 松本さんから見たら少し年下だし」
いや。まぁ、隆《りゅう》さんと付き合っているって噂あったしなぁ。実際上はどつき漫才繰り広げるただの上司部下なだけだったけど。大体、彼女がEC事業局のときから業務を一緒にすることがあったから、中身がおっさんだってのも知ってるし。あの人に対して女だからとかそういうことは関係ないっしょ。そもそもあの業務量を嬉々としてこなすバイタリティ。もともと彼女にはかなわないと思っていたから、ぶっちゃけ上司になったときに素直に彼女の下になれてよかったって気持ちしかなかった。
「んーーー」
なんとなく、なんて答えるか、坂野の考え方間違ってるぞ、あの人そういう目線で見て測れる人じゃないぞ、とかどういうか悩んでたら、坂野がひたすら暴走する。
「俺だったら深夜の二人きりの残業のときにXXXX《ピーーーっ》とか起こったら面白いなとか、ちょっと悪いこと考えちゃいますけどね!」
「いや…、そういうことを考えるのが…」
はっと坂野の後ろに人影がいるのに気がついた。
さ、桜さん! こえー。その笑顔怖ぇっ! 何この絶対零度の微笑み? 綺麗なんだけど綺麗なんだけど! 霊気?それとも冷気って言うんですか? なんかにじみ出てますよね!?
でも坂野は気がつかない。ボクはもしや後輩が抹殺される瞬間を見ねばならないのかっ? ついに上司が犯罪者に!? すごい冷や汗が、背筋を流れた。
「でも、俺、ホントラッキーだなぁ。あんな仕事出来てきれいなお姉さんの下で働けて!って思いますよ」
あ。桜さんの怒りが腰砕けになった。
でも笑顔が、笑顔が、ボクが知ってる桜さんの中ではまだかなり剣呑な笑顔だ。
笑顔を貼り付けたまま、コツってヒールの足音をさせて桜さんが近づいてきた。
「坂野」
「あっ桜さん! お疲れ様です!」
「来週出張行ってほしいんだけど? 予定整理できる?」
「えっ!」
「パスポート持ってる? NYだけど」
「マぁジっすか! 大丈夫っすー。ってか万難を排してでもいきたいっす!」
「よし。じゃー来週火曜から3日間お願いね」
「わー! うれしいです。お土産なんか買ってくるっす!」
「ありがとう」
ニコニコ笑いながら繰り広げる桜さんが怖い。
いやNY3日間って往復の日程も入れてですよね!?
しかもお金出すからアレとかコレとか買ってきてとかいってるのって、向こう限定のブランド品じゃないですか? あんた、ブランド品ほとんど興味ないだろうが。人事の山野さんに言われたまま服と小物購入するのは知ってんだぞ! ワードローブの管理自分で出来ないんだぞ!? 出歩けるわけがない坂野にそのオーダーは…。それって、ただのいやが…(ry
「じゃ、よろしくね。あとで業務内容メールするから」
そういって桜さんはちらりとボクの方をにっこり笑ってみてから、自分の席に戻った。
メッセージは明白だ。余計なことは言うな!だ。こういうところが隆さんの教育の賜物っていうか、似たもの上司部下って感じがする。桜さんって結局女版の隆さんなんだよな。
ああ。あの笑顔に騙される坂野って……あほだなー。
ある日後輩の坂野がそんな雑談を始めた。
ボクの上司の鈴木桜との付き合いは長いといわれれば長い。
ただ、彼女の場合は入社当時から、ずっと上司部下という形に近い人間がいるので、ボクが特別長いわけではない…と思うのだが。
「まぁ3年くらいかなー。この部署ができてからだから」
「へー。最初、ああいうきれいな女子が上司とか何か思ったりしなかったんですか? 松本さんから見たら少し年下だし」
いや。まぁ、隆《りゅう》さんと付き合っているって噂あったしなぁ。実際上はどつき漫才繰り広げるただの上司部下なだけだったけど。大体、彼女がEC事業局のときから業務を一緒にすることがあったから、中身がおっさんだってのも知ってるし。あの人に対して女だからとかそういうことは関係ないっしょ。そもそもあの業務量を嬉々としてこなすバイタリティ。もともと彼女にはかなわないと思っていたから、ぶっちゃけ上司になったときに素直に彼女の下になれてよかったって気持ちしかなかった。
「んーーー」
なんとなく、なんて答えるか、坂野の考え方間違ってるぞ、あの人そういう目線で見て測れる人じゃないぞ、とかどういうか悩んでたら、坂野がひたすら暴走する。
「俺だったら深夜の二人きりの残業のときにXXXX《ピーーーっ》とか起こったら面白いなとか、ちょっと悪いこと考えちゃいますけどね!」
「いや…、そういうことを考えるのが…」
はっと坂野の後ろに人影がいるのに気がついた。
さ、桜さん! こえー。その笑顔怖ぇっ! 何この絶対零度の微笑み? 綺麗なんだけど綺麗なんだけど! 霊気?それとも冷気って言うんですか? なんかにじみ出てますよね!?
でも坂野は気がつかない。ボクはもしや後輩が抹殺される瞬間を見ねばならないのかっ? ついに上司が犯罪者に!? すごい冷や汗が、背筋を流れた。
「でも、俺、ホントラッキーだなぁ。あんな仕事出来てきれいなお姉さんの下で働けて!って思いますよ」
あ。桜さんの怒りが腰砕けになった。
でも笑顔が、笑顔が、ボクが知ってる桜さんの中ではまだかなり剣呑な笑顔だ。
笑顔を貼り付けたまま、コツってヒールの足音をさせて桜さんが近づいてきた。
「坂野」
「あっ桜さん! お疲れ様です!」
「来週出張行ってほしいんだけど? 予定整理できる?」
「えっ!」
「パスポート持ってる? NYだけど」
「マぁジっすか! 大丈夫っすー。ってか万難を排してでもいきたいっす!」
「よし。じゃー来週火曜から3日間お願いね」
「わー! うれしいです。お土産なんか買ってくるっす!」
「ありがとう」
ニコニコ笑いながら繰り広げる桜さんが怖い。
いやNY3日間って往復の日程も入れてですよね!?
しかもお金出すからアレとかコレとか買ってきてとかいってるのって、向こう限定のブランド品じゃないですか? あんた、ブランド品ほとんど興味ないだろうが。人事の山野さんに言われたまま服と小物購入するのは知ってんだぞ! ワードローブの管理自分で出来ないんだぞ!? 出歩けるわけがない坂野にそのオーダーは…。それって、ただのいやが…(ry
「じゃ、よろしくね。あとで業務内容メールするから」
そういって桜さんはちらりとボクの方をにっこり笑ってみてから、自分の席に戻った。
メッセージは明白だ。余計なことは言うな!だ。こういうところが隆さんの教育の賜物っていうか、似たもの上司部下って感じがする。桜さんって結局女版の隆さんなんだよな。
ああ。あの笑顔に騙される坂野って……あほだなー。