やむ落ち。

桜のお仕置き。

「坂野お疲れ様~」

 出張から帰ってきたおれに、上司の鈴木桜さんがにっこり笑ってねぎらってくれた。
 おれは桜さんに頼まれていた「コーチのマディソントート」など頼まれていたものと、お土産を渡した。

「あら、買えたんだ。ありがとう大変だったでしょ?」

 いやもうホント大変だった。3日の出張ってNYの場合実際上は一日程度なんだよな。
 うっかりイロイロ遊べると思ってたのに、実際上は向こうの研究者達とのディスカッションで缶詰状態だった。火曜に予定していたスカイプ会議を無理やり水曜の朝にずらすことになってしまったりで、ちょっとトラブルもあったし。
 たまたま、仲良くなった向こうのオフィスの女の子に小物プレゼントするからっていって買いだし頼めたけど、頼めなかったら桜さんとの約束守れなくて往生しただろう。ちょっと出費が痛かったけど、桜さんのオーダーをうまくこなせてちょっとうれしいぜ!

 しかし桜さんも上司とはいえ、限定モノに弱いなんてやっぱ女の人なんだなぁ~と少しほっこりした。スカイプで妙におびえ声に聞こえた桜さんの声が気になってたけど、戻ったらちゃんといつもどおり笑顔が綺麗なおねえさんだったので安心もした。

「坂野~。これお礼ね」

 お昼休み終了後、桜さんがスタバのカップを差し出した。

「なんすかこれ?」

 自慢じゃないが、甘いマスクと言われる(自称)おれだが甘いものは苦手だ。
 苦手って言うか、食べると頭痛がするくらいだめだ。
 だが桜さんが持っているのは見てくれだけでも強烈な代物だった。
 この人たまにこういうボケをやらかすんだよなぁ。
 そこが可愛いところなんだけど…。

「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ、おいしいよ?」

 とても無邪気な笑顔で、桜さんは差し出した。
 あーなんてうちの上司は、笑顔が綺麗なんだろう?
 仕事は男勝りで、大ボスの隆さんとも平気で口げんかしちゃうけど、鑑賞するって点においてはピカイチだ。

 こんな笑顔で差し出されたら受け取らないわけにはいかないだろう。
 桜さんが立ち去ったら、隣の部署の同僚の女子にでも渡しにいこう。

 …。
 ……。
 ………。
 何で立ち去らないんですか? 桜さん?

「坂野ちょっと、NYの話聞きたいから打ち合わせしようか。私のせいで会議一個飛ばしちゃったし。それ飲みながらでいいから」
 にこにこにこと桜さんが満面の笑みのまま問いかけてくる。
 こ、断れない…。
 脂汗をにじませながら、おれは桜さんのお礼のスタバのフラペチーノを飲むことに。

 横で仕事していた先輩の松本さんがへんなうめき声を上げてるのを聞きつつ、あきらめて打ち合わせスペースへと桜さんと一緒に向かった。
 この後すごい胸焼けと頭痛に悩まされたのはいうまでもない。サラリーマンってつらいよな。
< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop