やむ落ち。
最強の朝ごはん
――あれ? 桜?
コーヒーでも飲もうと入った駅前の喫茶店。
ドアが開く音がしたので反射的に目線を上げたら、部下が入ってきたので、俺はびっくりした。まぁ確かに生活圏が近いとこういうことはあってもおかしくはない。
桜は中目黒在住。俺は恵比寿。
軽く買い物や遊ぶとしたら、確かに恵比寿になることが多いんだろう。
桜が座りきって逃げられない状況になってから、挨拶して驚かしてやろうと、顔を伏せた。
「カフェ・オ・レお願いします」
普段、俺が接している桜の声よりも数段穏やかでしっとりした声音。トーンも少し高めだ。こういう声でずっと話してれば、きっと、もてんだとおもうんだよな。
漢《おとこ》らしい、としか言えない日常のぎゃんぎゃん言ってる桜の様子を思い出す。
あー。なんかイヤなこと思い出してきた。イロイロ業務を積み上げられて、逃げようとしたら、昨日一喝されたことを思い出す。
まぁ確かに、桜の権限じゃ処理できないものばっかりだから俺がやるしかないんだけどさ~。
なぜ、部下に怒られなきゃいけないんだ、俺?みたいな。
そんなことを考えてたら、声をかけるタイミングを見失ってしまった。
待ち合わせだったらしく、桜の向かいに誰か座ったのに気がついた。
うっすらと伺うと、――男だった。
もうこうなると、いくら部下の私生活を揶揄ってからかうのが、趣味の俺とはいえ、声かけるわけにもいかないし、出て行くことも出来ないじゃねーかよ。あれが週末の失態君だろうか? たぶんそうだろう。
あまり視線を投げるのもまずいので、チラッとだけみるとなかなかにいい男というか、微笑っているような感じなのに、どこか鋭い。桜にしてはハードル高い男を選んだもんだと思った。
ま。週明け、このネタでいじるのは決定なんだけどなっと思って、新聞に顔を落とした。
相手の男の声は低くて、声の質はわかるが内容まではしっかりわかる感じじゃなかったから、最初はどういう会話かはよくわからなかった。
しかし、桜の声が甘い。
甘いって言うか甘ったるいに近い。
俺と話すときは大違いで、本当に照れる。なんだこれ?みたいな。
「へー。シンガポールのシャングリ・ラ ホテルの朝ごはんそんなに豪華なの?」
「いいないいな~。うー。とろとろのオムレツとか、カリカリベーコンとか食べたいなぁ。最近おいしいもの食べてない気がするよ。昨日もお昼抜きだったしっ」
あーごめんごめん。昨日俺が逃げようとしたからお前、昼休みの時間ずっと俺の仕事の処理について詰めてたよな~。俺も食えなかったが自動的に桜も飯抜きだったよな。
「朝ごはんおいしいと、その日一日結構幸せな気分になるよね」
「あーでも今日の飲み屋さんも楽しみなんだ~。スペインバルってめずらしいよね。ピンチョスとか食べたいし!」
しゃべってることは非常に他愛がないというか、オマエずっと飯の話ばっかって…。食べさせてない子みたいだろうが! おととい確かたっかいワインおごってやったろうが!
しかも、チーズで十分です!とかいって、ひたすら呑んでたっけ。まぁうまいもの食ってないのは本当だがうまいもの呑んでるのはカウントせずかよ?
ひとしきり、飯の話をして、二人はどこかに行くのであろう、出て行った。
しかし、失態君よくわかっているというか、距離は近いけど直接的なスキンシップをしないところが、桜って女をわかってるなと思った。
紙袋は持ってやるが、桜のバッグは持たないとか、決定的に逃げれないようにしているけども、桜からしたらそんな風に感じない距離。
色気がない割にはなんか甘い会話に、俺は月曜日にどういう目に合わしてやろうかと考えをめぐらした。
…が、やはりちゃんとパンくらい用意してからからかってやろうと思った。
で。月曜日。
「おはようございます。隆さんお願いしてた件いかがですか?」
「あー。おはよ。桜、朝飯は?」
「は? いえ食べてないですけど…」
「やる」
俺は牛乳と井村屋のあんぱんを桜に差し出した。
「えと…。ありがとうございます。で、お願いしてた…」
「この組み合わせの朝飯は最強だと思うから、今日はご機嫌で仕事できるよな?
てかさー。飯ばっかの話、男にするのはいかがなもんだと思うぞ。
もうちょい色気ある話しないとさ~」
「○X△☆!?」
もちろん頼まれてた仕事は、2/3くらいしか手をつけてなかったので、桜に、普段より2オクターブばかし低い声でひたすら怒られまくったのは予想の範疇だったが、すげー真っ赤で面白かった。
やっぱ、桜からかうのがストレス発散には一番だと思った。
コーヒーでも飲もうと入った駅前の喫茶店。
ドアが開く音がしたので反射的に目線を上げたら、部下が入ってきたので、俺はびっくりした。まぁ確かに生活圏が近いとこういうことはあってもおかしくはない。
桜は中目黒在住。俺は恵比寿。
軽く買い物や遊ぶとしたら、確かに恵比寿になることが多いんだろう。
桜が座りきって逃げられない状況になってから、挨拶して驚かしてやろうと、顔を伏せた。
「カフェ・オ・レお願いします」
普段、俺が接している桜の声よりも数段穏やかでしっとりした声音。トーンも少し高めだ。こういう声でずっと話してれば、きっと、もてんだとおもうんだよな。
漢《おとこ》らしい、としか言えない日常のぎゃんぎゃん言ってる桜の様子を思い出す。
あー。なんかイヤなこと思い出してきた。イロイロ業務を積み上げられて、逃げようとしたら、昨日一喝されたことを思い出す。
まぁ確かに、桜の権限じゃ処理できないものばっかりだから俺がやるしかないんだけどさ~。
なぜ、部下に怒られなきゃいけないんだ、俺?みたいな。
そんなことを考えてたら、声をかけるタイミングを見失ってしまった。
待ち合わせだったらしく、桜の向かいに誰か座ったのに気がついた。
うっすらと伺うと、――男だった。
もうこうなると、いくら部下の私生活を揶揄ってからかうのが、趣味の俺とはいえ、声かけるわけにもいかないし、出て行くことも出来ないじゃねーかよ。あれが週末の失態君だろうか? たぶんそうだろう。
あまり視線を投げるのもまずいので、チラッとだけみるとなかなかにいい男というか、微笑っているような感じなのに、どこか鋭い。桜にしてはハードル高い男を選んだもんだと思った。
ま。週明け、このネタでいじるのは決定なんだけどなっと思って、新聞に顔を落とした。
相手の男の声は低くて、声の質はわかるが内容まではしっかりわかる感じじゃなかったから、最初はどういう会話かはよくわからなかった。
しかし、桜の声が甘い。
甘いって言うか甘ったるいに近い。
俺と話すときは大違いで、本当に照れる。なんだこれ?みたいな。
「へー。シンガポールのシャングリ・ラ ホテルの朝ごはんそんなに豪華なの?」
「いいないいな~。うー。とろとろのオムレツとか、カリカリベーコンとか食べたいなぁ。最近おいしいもの食べてない気がするよ。昨日もお昼抜きだったしっ」
あーごめんごめん。昨日俺が逃げようとしたからお前、昼休みの時間ずっと俺の仕事の処理について詰めてたよな~。俺も食えなかったが自動的に桜も飯抜きだったよな。
「朝ごはんおいしいと、その日一日結構幸せな気分になるよね」
「あーでも今日の飲み屋さんも楽しみなんだ~。スペインバルってめずらしいよね。ピンチョスとか食べたいし!」
しゃべってることは非常に他愛がないというか、オマエずっと飯の話ばっかって…。食べさせてない子みたいだろうが! おととい確かたっかいワインおごってやったろうが!
しかも、チーズで十分です!とかいって、ひたすら呑んでたっけ。まぁうまいもの食ってないのは本当だがうまいもの呑んでるのはカウントせずかよ?
ひとしきり、飯の話をして、二人はどこかに行くのであろう、出て行った。
しかし、失態君よくわかっているというか、距離は近いけど直接的なスキンシップをしないところが、桜って女をわかってるなと思った。
紙袋は持ってやるが、桜のバッグは持たないとか、決定的に逃げれないようにしているけども、桜からしたらそんな風に感じない距離。
色気がない割にはなんか甘い会話に、俺は月曜日にどういう目に合わしてやろうかと考えをめぐらした。
…が、やはりちゃんとパンくらい用意してからからかってやろうと思った。
で。月曜日。
「おはようございます。隆さんお願いしてた件いかがですか?」
「あー。おはよ。桜、朝飯は?」
「は? いえ食べてないですけど…」
「やる」
俺は牛乳と井村屋のあんぱんを桜に差し出した。
「えと…。ありがとうございます。で、お願いしてた…」
「この組み合わせの朝飯は最強だと思うから、今日はご機嫌で仕事できるよな?
てかさー。飯ばっかの話、男にするのはいかがなもんだと思うぞ。
もうちょい色気ある話しないとさ~」
「○X△☆!?」
もちろん頼まれてた仕事は、2/3くらいしか手をつけてなかったので、桜に、普段より2オクターブばかし低い声でひたすら怒られまくったのは予想の範疇だったが、すげー真っ赤で面白かった。
やっぱ、桜からかうのがストレス発散には一番だと思った。