ありがとう。








ストレッチャーの音と共に、家族が必死に患者に呼びかけている声がする。




そう、それはまるでなんかの映画のように





「美喜!美喜しっかりして!!」




その瞬間俺たちの時は止まったように、沈黙が訪れる。






角を曲がって俺たちの方にストレッチャーは向かってくる。






それが俺たちの目の前を通った時、俺たちの目に見えたのは




酸素マスクをして、苦しそうに喘いでいる美喜の姿だった。






「美喜!」



俺は慌てて走るが、追いつけないままそのストレッチャーは手術室へと姿を消した。





しばらくして、手術中という赤いランプがついた。





「おばさん、一体何が。」



「・・・ッ・・」



むせび泣く美喜の母親の顔は




いつか美喜と似ていると思った笑顔の面影はかけらも無かった。









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