溺愛マイヒーロー
「いない、かな。付き合い長いけど聞いたことないし」

「マジで!」

「すきな人がいる、とかも聞かないなー」

「おー!」



思ったことを素直に話したら、斜め上からは歓喜の声。

俺はようやく、身体ごと振り向いて秋本を見上げた。



「なに秋本、琴里のことすきなの?」

「やー、すきっつーか、雰囲気かわいいじゃん。あとマネージャーっつーのも、ツボ」

「あー」



いるねー、そういうのが好きな人。

まあ実際、マネの仕事ってほんと大変なんだけどね。憧れだけじゃできないっていうか。

本当にそのスポーツが好きで、応援する気持ちがないと。

……その点琴里は、一生懸命なんだよな。



「うん、琴里な、しっかりしてるしオススメだけど」

「だけど?」

「彼女と付き合うには、野球部員全員の承諾が必要になりま~す」

「はあ?! なんだそれ?!」



今度は悲痛な叫びをあげる秋本に、あはは、と笑って俺は前へ向き直る。

──だって“俺らのマネ”が誰かのものになるだなんて、おもしろくないじゃないか。
< 12 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop