溺愛マイヒーロー
「………」



彼は無言で、ふいっとあたしから視線を外すと。

そのまま背を向けて、再びグラウンドの方へと駆け足に去って行ってしまった。


……って、なんだそれー!!



「わん!!」

「ひっ、」



再び吠えられて、1歩後退る。

や、どうしよう、泣きたくなってきた。

辻くんに見捨てられたのもショックだし、やっぱりワンコ様こわいし。



「……う……」



やだやだ、こんなとこで、泣きたくなんてないのに。

けど、もう、我慢の限界。



「ふ……」

「琴里っ!」



突然耳に届いた、だいすきな人の声。

何も考えないまま、パッと顔をあげた。



「ゆ、すけ……」

「どうしたんだよー! みんな心配してたし!」



言いながら、彼は白い犬なんて見向きもしないでこちらへやって来ると、ほとんど泣き顔なあたしにぎょっとする。



「ええっ、なんで泣いてんの?!」

「あっ、あれ、あの犬がっ」

「犬ぅー?」



そこでやっと、あたしが指さす先を見た悠介は犬の存在に気づいて。

一瞬きょとんとした後、彼はためらうそぶりも見せずに、その犬へと近づいていく。
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