溺愛マイヒーロー
「ほれ、治った?」



そんなせりふとともに放された手に、あたしはようやくハッとする。

彼の目は見れないまま、コクコクと人形のようにうなずいた。



「な、なおっ、た」

「ん、よし」



やさしく笑って、ぽんと1度だけあたしの頭に手を乗せて。

立ち上がった悠介は、わきに置いてあったジャグを当たり前のように持ち上げる。



「あ、ごめん自分で持つっ」

「いやいやいや、何言ってんの。みんなも待ってるし、黙ってついといでー」



そう苦笑してから歩き出した彼の後ろを、やっぱりあたしはおとなしくついて行くしかない。

未だはやい鼓動はおさまりきらなくて、ただただ、その背中を追いかけた。



「琴里遅いなーって思ってたら、ヒロが普通に『あっちで汐谷が困ってたぞ』とか言い出して。『人でなし!』っつって、あわててこっち来たんだよ」

「………」

「そっか琴里、犬苦手なんだもんなぁ」



くすくす笑う悠介の手元で、ジャグが彼の動きに合わせて揺れる。

それを見つめながら、あたしはぎゅっと、自分の両手を握りしめた。



「……ゆ、悠介の、」

「ん?」

「悠介の、手、も……“男の子”って、感じだよ」

「んー? そっか?」



そう言って、ジャグを持っていない方の自分の手をまじまじ見つめる悠介の斜め後ろを。

あたしは、なんだかとてもしあわせな気分で歩いた。
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