溺愛マイヒーロー
「琴里おまえ、すきなヤツいんの?」

「は……っ?!」



俺の問いに、一瞬にして琴里の顔が赤く染まる。

そして彼女が素早くヒロに視線を向けたのを、俺は見逃さなかった。



「……辻くん?!」

「いや俺、なんもしてねぇし」



同じようにそばへとやって来たヒロは、ため息をついてそう言う。

……なんだこれ、なんでふたりだけ通じあってんの?



「琴里? どーなんだよ?」

「あ、う、」



まっすぐ目を見て改めて訊ねると、琴里は明らかに視線を泳がせる。

なんだかそれがおもしろくなくて、俺はまた1歩踏み出した。



「いんの? いないの?」



自分が思ってたよりも、それはずっと強い口調になって。斜め後ろから、ヒロが止めに入ろうかどうか迷っているのが雰囲気で伝わってきた。

だけど俺は、それを気づかないフリ。

こくりと、琴里が息をのんだ。



「──い、」

「おーい! キャッチボール終わりだぞー! みんな集合しろー!」



琴里の言葉をさえぎったキャプテンの一声が、俺たちの間にあった異様な空気を切り裂いた。

ハッとした俺は、そこでようやく、自分が握りしめたままだったボールにも気づく。
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