溺愛マイヒーロー
「……おら、行くぞ。汐谷も」



1度ふっと息を吐いたヒロが俺の頭をミットで小突き、視線は琴里に向けてそう言う。

あ、と思ったときには、すでに彼女は踵を返していた。



「ッ待った、琴里、」



反射的に身体を動かし、彼女の手首を掴んで引きとめる。

こちらを見ないまま、だけど琴里は、素直に立ち止まった。



「ごめん、言い訳だけどなんか俺、今イライラしてて、」

「………」

「別に、琴里に怒ってたわけじゃないから……ほんと、ごめん」

「……うん」



俺の言葉に、ひとつうなずいて。彼女がくるりと、こちらを振り向く。



「気にして、ないよ」



そう言いながら笑ってみせた彼女の表情が、どこか泣きだしそうにも見えたのは。

たぶんきっと、気のせいなんかじゃなかった。
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