溺愛マイヒーロー
「……ふーん。いいんじゃねーの? お子ちゃまな琴里にはいい経験でしょー」

「え……?」

「その日なら、ちょうど部活も休みじゃん。せっかくだし、琴里行けば?」



椅子に座るあたしの頭上で、瑞穂が「なんだ、ちょうどよかったじゃない!」と手を叩く。

その声をどこか他人事のように聞きながら、あたしは机の木目を見つめたまま、ひざの上できゅっとこぶしを握りしめた。



「……うん、そうだね。あたし行くよ」

「よし! それじゃあ他の参加する子たちにも、私伝えとくからっ!」



言うがはやいか、彼女は機嫌よく自分の席に戻っていく。

残されたのは、無言のあたしと、悠介。



「……じゃー琴里。これ、借りるから」



辞典を持った片手をあげて悠介はそう言うと、そのまま踵を返して教室のドアの向こうへと消えた。

結局あたしは、最後まで顔をうつむかせたままで。



「……ッ、」



──泣きたい、けど、泣けない。

だって“友達”のあたしには、彼を責めて泣いていい権利なんか、ない。
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