溺愛マイヒーロー
「……さっきから思ってたんだけどさ、汐谷の、その顔」

「ん? ──ああ、このメイクのこと?」



くるりと彼を振り返って、あたしは自分の顔を指さした。

いつもはほぼすっぴんで化粧っ気なんてないけど、今はめずらしくマスカラやらチークやらアイシャドウやら、ナチュラルながらもバッチリ施していて。

辻くんがうなずいたのを確認し、また作業を再開しながらも言葉を返す。



「これねー、放課後部活に来る前、友達がやってくれたの。『合コン行くのに普段のすっぴんじゃダメだ! 今から特訓!』とか言われちゃってさー」

「へぇ」

「まあ、やっぱり部活でちょっと落ちちゃってると思うんだけど……似合わない、かな?」

「いや、ただなんか見慣れないだけ。いいんじゃね?」

「……ありがと」



ほめてもらえたのが素直にうれしくて、思わず笑みが浮かんだ。

辻くんは言い方がストレートで嘘をつかない人だから、その言葉は信用できる。


……これが悠介相手だったら、また違う感情にもなるんだろうけどね。
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