溺愛マイヒーロー
あたしは話題を変えようと、わざとイタズラっぽい笑みを浮かべながら、辻くんの方を振り向く。



「ていうかさ、辻くんはすきな人とかいないの? あたし、今までお世話になった分も協力したいんだけど」

「いねぇな。つーか、いたとしても汐谷には頼まない」

「ひど! どういう意味ですか!」

「そういう意味です。……って、あー汐谷、外もう暗いし、今日も送ってくわ」



会話の途中、辻くんが窓から外に目を向けながら、当たり前のようにそう言った。

辻くんは言い方がぶっきらぼうだから表面的には冷たく思えるかもしれないけど、考え方がしっかりしてるし、実は結構やさしいところがあったりする。

……ほんと、すきな人いないのもったいないんじゃないかな。



「……別に、んなことねぇだろ」

「あれ? またあたし声に出してた?」



その問いに、彼が呆れたような表情でこくりとうなずく。

自分の失態に苦笑しながら、だけどあたしは、さらに続けた。



「でも辻くんって、嘘つかないし、目つき悪いけど意外にやさしいとこあるし」

「目つき関係ねぇだろ」

「さっきの仕返しです。……へらへらいろんな人にいい顔しないし、誠実で、ひとりの人だけ大事にしてくれそうで、」



そこまで言って、ふと視線を下に向ける。



「……あたし、辻くんみたいな人をすきになればよかったのかな」
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