可愛い生徒(カノジョ)の育て方
 さて、一芝居打つか。安西はこう見えてなかなか鋭いから、気付かれないように。

「いやいや、担任の先生のご指導があったからこそだろ。国語はやっぱりダントツにいいもんな。英語も講習の成果が出てだんだん上がってきてるようだし。政経は追い込みでこれから頑張ろうな!」
 
 さあどうだ。国語と英語の講習、俺がここまで褒めてるんだ。ちょっとは見せてみろよ。

 腹黒い俺に気付かない安西は、無邪気に笑っている。

 はしゃぐ安西と、褒める俺の声は、人の少ない職員室の中に響き渡っていた。

 安西が職員室を出てから、今の話を聞いていたであろう、安西の担任と英語の教員に早速交渉した。講習を見学させてください、と。

 快く引き受けてもらった。これだけ褒めたんだ、当然だよな。

 ……おそらく、ひどい内容の講習だろうと思っていたが、実際に自分の目で見なくてはわからない。

 もし、あまりにもひどすぎるようなら、来年度からの検討課題にするべきだと思った。

 ただし、下っ端の俺からは言えない。誰かベテランの味方を見つけて、一緒に管理職へ言うしかないか……。

 それだと、今年の3年生は間に合わない。

 悔しいが、異動したての下っ端は、こっそり裏で動くことしかできないのだ。
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